「自分が先に逝ってしまったら、この子はどうなるのだろう」——障がいのある子どもや、判断能力に不安のある家族を持つ親御さんが、夜も眠れないほど悩む問いです。
日本では高齢化が進む中で「親亡き後問題」が深刻化しています。親が元気なうちはなんとか支えられても、亡くなった後・あるいは親自身が認知症になった後、知的障がいや精神障がいのある子どもの生活や財産を誰が守るのか——その備えとして、まずは親御さんご自身が認知症などで倒れてしまうリスクに備える有力な選択肢のひとつが、親御さん本人を委任者とする「任意後見契約」です。法定後見とは異なり、本人が元気なうちに信頼できる人を自ら選んで契約できるのが最大の特徴です。
📖 この記事でわかること
目 次
任意後見契約とは、本人が判断能力のある元気なうちに、将来に備えて信頼できる人(任意後見受任者)との間で締結する公正証書による契約です。根拠法は「任意後見契約に関する法律」(1999年施行)です。
親亡き後問題において最も懸念されるのは、「子どもの財産を誰が管理するか」「日常生活の契約行為を誰が代理するか」という点です。任意後見契約はまさにこれに備える制度です。
任意後見契約は、以下のような方に特に有効です。
🏠 親御さんが定年退職・老後の生活設計を始めるとき
親自身の判断能力が低下する前に、子どもの将来サポート体制を整えておく最適タイミングです。元気なうちにしか「自分で後見人を選ぶ」ことはできません。
🏥 子どもが成人(18歳)を迎えるとき
成人後は親であっても法律上の代理権がなくなります。銀行口座の手続きや福祉サービスの契約など、子ども本人の判断能力が不十分な場合に支障が生じます。この時期に後見制度の活用を検討しましょう。
📝 遺言・相続対策を考え始めたとき
遺言書だけでは「亡くなった後」の財産の移転しかカバーできません。任意後見契約・遺言・信託を組み合わせることで、生前から死後まで一貫した保護が実現します。
ひとつでも当てはまれば、今すぐ準備を始めるサインです。
| 書 類 | 取得先・備考 |
|---|---|
| 本人(委任者)の印鑑登録証明書 | 市区町村窓口・3か月以内のもの |
| 本人の戸籍謄本 | 本籍地の市区町村 |
| 任意後見受任者(候補者)の印鑑登録証明書 | 市区町村窓口・3か月以内のもの |
| 任意後見受任者の戸籍謄本 | 本籍地の市区町村 |
| 任意後見契約書の原案 | 行政書士・公証役場等で作成支援 |
| 財産目録(任意) | 自身で作成または専門家が支援 |
| 項 目 | 目安金額 |
|---|---|
| 公正証書作成手数料(公証役場) | 約11,000円〜(財産額・内容による) |
| 登記嘱託手数料 | 約1,400円 |
| 行政書士等の報酬(契約書作成・支援) | 約5〜15万円(事務所により異なる) |
| 任意後見監督人の報酬(月額・発動後) | 月1〜3万円程度(家裁が決定) |
| 任意後見人の報酬(月額・発動後) | 親族は無報酬のケースあり、専門家は月2〜5万円程度 |
※上記はあくまで目安です。内容・財産規模・地域により変動します。詳細はご相談ください。
任意後見契約の締結から効力発生まで、大きく以下のステップで進みます。
1.後見候補者と支援内容の検討
誰に何を任せるかを整理します。親族・専門家(行政書士・司法書士等)から候補を選びます。
↓
2.専門家への相談・契約書原案の作成
行政書士などの専門家に相談しながら、契約の内容(代理権の範囲・財産目録等)を固めます。
↓
3.公証役場での公正証書作成
任意後見契約は必ず公正証書で作成する必要があります(法律上の要件)。公証人が内容を確認・作成します。
↓
4.後見登記(法務局)
公証人が法務局に登記を嘱託します。「後見登記等ファイル」に記録されます。
↓
5.【発動】家庭裁判所への申立て
本人の判断能力が低下したと判断されたとき、家庭裁判所に「任意後見監督人選任」を申立てます。
↓
6.任意後見の開始
家裁が任意後見監督人を選任した時点で、任意後見人の代理権が効力を持ちます。
⚠ 重要:契約から発動までは「自動的」ではありません
契約を結んだだけでは後見の効力は発生しません。本人の判断能力が低下した際に、家庭裁判所への申立てが別途必要です。申立ては本人・任意後見受任者・4親等内の親族等が行えます。
「財産管理全般」と書いたつもりが、特定の口座や不動産が代理権の対象外と解釈され、銀行手続きが止まったケースがあります。
任意後見は委任者(親)が亡くなった時点で終了します。「親の死後、子どもの財産を誰が守るか」は別途、遺言や信託で手当てが必要です。
親族間の感情的対立や、候補者が先に亡くなる・認知症になるリスクを想定していなかった事例があります
任意後見契約は本人に契約当時の判断能力が必要です。認知症が進んでから「契約したい」と言っても、公証人が契約を拒否するケースがあります。
| 項 目 | 自分で行う場合 | 専門家に依頼する場合 |
|---|---|---|
| 契約書の作成 | 専門知識が必要。内容が不完全になりやすい | 法的に有効な形式で作成。漏れを防止 |
| 公証役場との調整 | 事前準備の方法がわかりにくい | 必要書類の準備から同行まで対応可能 |
| 関連制度との連携 | 遺言・信託等との整合性を自分で考える必要あり | トータルで「親亡き後」を設計・提案できる |
| 時間・手間 | 情報収集・調整に多くの時間がかかる | 窓口一本化で効率的に進められる |
| 将来の発動対応 | 申立て時点で困ったとき相談相手がいない | 発動時の家裁申立てもサポート可能 |
任意後見人は必ず専門家でないといけませんか?
いいえ。信頼できる親族(兄弟姉妹・子ども等)を後見人に選ぶことができます。ただし、後見事務の複雑さや将来のリスクを考え、専門職と組み合わせることを推奨する場合もあります。
任意後見契約は「親」と「子ども」のどちらが結ぶものですか?
本制度は「将来、判断能力が低下する本人が結ぶ」ものです。そのため、この記事でご紹介している「親御さんが認知症になった後の備え」としては親御さん自身が契約者となります。一方で、「知的障がいのあるお子さん自身の将来の備え」として、お子さん本人が契約者(委任者)になることも可能です。ただし、お子さん自身に「契約の内容を理解する能力(軽度の知的障がいなど)」があると公証人に認められる必要があります。判断能力が不十分な場合は、法定後見制度(後見・保佐・補助)の活用を含めて検討しますので、まずは専門家へご相談ください。
任意後見契約を途中でやめたり、変更したりできますか?
発動前(任意後見監督人が選任される前)であれば、公正証書による解除や合意解除が可能です。発動後は家庭裁判所の許可が必要です。また内容変更は新たな公正証書の作成が必要です。
親が亡くなった後も任意後見は続きますか?
いいえ。任意後見は委任者(親)が亡くなった時点で終了します。親亡き後の子どもの保護は、別途「遺言」や「家族信託」で手当てする必要があります。セットでの設計が重要です。
手続きにどのくらいの期間がかかりますか?
専門家への相談から公正証書作成まで、通常1〜3か月程度です。公証役場の混雑状況や書類準備の状況により変動します。発動時(家裁申立て〜監督人選任)はさらに1〜2か月かかります。
任意後見と「日常生活自立支援事業」はどう違いますか?
日常生活自立支援事業は社会福祉協議会が提供するサービスで、日常的な金銭管理や書類保管等を支援します。不動産取引など法律行為の代理はできません。任意後見はより広範な法律行為の代理が可能ですが、費用や手続きが異なります。両者を組み合わせる場合もあります。
後見人が不正をした場合の対策はありますか?
任意後見には必ず「任意後見監督人」(家庭裁判所が選任)が付きます。後見人の事務を定期的にチェックする役割を担い、不正の抑止・発覚に機能します。法定後見と比較しても監督体制が設けられている点は同じです。
親亡き後問題は「いつかやろう」と先延ばしにしているうちに、手を打てる時間が失われていきます。任意後見契約は本人に判断能力があるうちにしか結べないという大原則をぜひ覚えておいてください。
✅ 今日からできるアクション・チェックリスト
□ 障がいのある家族がいる場合、成年後見制度(任意後見 or 法定後見)の必要性を改めて確認する
□ 任意後見の候補者(誰に頼むか)を家族で話し合う
□ 任意後見で委任したい内容(財産・身上監護の範囲)をリストアップする
□ 遺言・家族信託と組み合わせた「親亡き後」のトータル設計が必要かを検討する
□ 行政書士等の専門家に無料相談を申し込んでみる
最初の一歩は「相談する」ことです。専門家に話すだけで、自分の状況が整理され、何をすべきかが明確になります。まずはお気軽にご連絡ください。
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そんな漠然とした不安でも構いません。まずはお話をお聞かせください。
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※本記事は2026年5月時点の法令・制度に基づいています。法改正等により内容が変わる場合があります。
個別の事案については必ず専門家にご相談ください。